卒館を祝う会
3月15日、児童養護施設希望館(大橋)で年度末恒例の“卒館を祝う会”を行いました。救世軍高崎小隊太田小隊長をはじめ、高校の担任の先生方においでいただき、児童・職員含め総勢50名でささやかなお祝いの会となりました。
卒館を迎えたDくんとMくんは新調したスーツを着て緊張した面持ちです。はじめに、全員で『希望館の歌』を歌いました。毎月の誕生日会でいつも口ずさんでいたこの歌を歌うのも、卒館生は今日が最後です。次に、施設長から卒館生にお祝い・激励のことばがありました。輝きのある人生に必要なこと、それは努力と忍耐である、と。太田小隊長からは、努力と忍耐には健康が不可欠であること、そのためにやりたいことだけを追求するのではなく自分の健康を第一に生きていってほしい、とのお話がありました。高校の先生方には、卒館生のこれまでの成長を話していただき、これからの人生への励ましのおことばをいただきました。
続いて、在館生を代表して高校2年生のAさんが卒館生へ『送ることば』を述べました。長い間一緒に生活してきた中での思い出、一足先に自立するDくんとMくんへの尊敬の気持ちとこれからの抱負を伝えました。Aさんは来年の自分の姿を思い描き始めたようです。
いよいよ、卒館生からお世話になったすべての方に向けての『感謝のことば』です。Dくんは、はじめから感極まってしまい言葉が出ませんでした。これまでの希望館での出来事が走馬灯のように頭を駆け巡っていたのでしょうか…。ちょっとしたことでいきり立っていた小さな自分、突っ張っていた自分と向き合い寄り添ってくれた職員、学校の先生、両親に対して、感謝の気持ちを涙とともに溢れさせました。今までDくんはなかなか表に出さなかったけれど、こんなに希望館の生活がしみついていたんだ、彼の心の中にはいつの間にか希望館の愛が宿っていたのだ、とDくんを見ているみんなの胸が熱くなりました。
Mくんは高校で生徒会役員だったこともあり場慣れしているのか、Dくんにつられた涙を我慢しながらしっかりした口調で感謝のことばを伝えました。Mくんは、施設で生活していることを気負わずに、部活に生徒会活動、アルバイトと、精力的に様々なことに取り組んできました。今日まで充実した生活を送れたのは、みなさんのおかげです、と話す立派な姿を見て、Mくんを慕う小学生の男の子たちが泣き出しました。顔を真っ赤にし、涙をボロボロこぼして…。これまでMくんがみんなに向けてきたやさしさが彼らの涙を流させたようです。
その後、担当する保育士からDくんとMくんそれぞれにメッセージを伝えました。Dくんを担当する佐久間先生と北爪先生は、はじめから号泣していてメッセージを読み上げるのに苦労していましたが、たくさん手をかけさせてくれたDくんへの思いと感謝を伝えました。Mくんを担当する萩原先生と田島先生は、とても対称的でした。男性らしく、淡々とMくんのおもしろエピソードを話す萩原先生。Mくんにとっては一番長く担当だった田島先生は、涙をこらえながら「担当でいさせてくれてありがとう」としめくくり、涙をこらえていたMくんの決壊を破りました。その様子を見守っていた大人も子どもも、それぞれの、そしてお互いの絆と縁を感じて、涙を流さざるをえませんでした。
涙の後は、調理の先生達がすべて手作りしてくれたごちそうで会食です。みんなで赤くなった目を細めながら、思い出を語ったり、おいしいご飯に舌鼓を打ちました。会食を終えて、来賓のみなさまを送り出してからも、しばらく余韻が覚めない様子で卒館生を囲みました。こんなに大人も子どもも泣いたのは私の知る限り、はじめてのことです。
24年度は大舎制の建物の中で、小舎化を導入したばかりの試行錯誤の一年でした。一年前までとは違い、子どもと職員の距離が縮み、笑顔と会話が増えてきたのを実感しています。そんな中で迎えた、この卒館を祝う会でしたが、いつのまにか互いのつながりを感じて人を思いやる心が育ち始めていたようです。
DくんとMくんは、それぞれに就職して一人暮らしを始めます。おっちょこちょいだし、ちゃんとやっていけるかなぁ、という不安もありますが、たくさんの経験を積んで一人前になり、ステキな人と巡りあってしあわせな人生を歩んでほしい、という願いをこめて彼らを社会へ送り出します。
児童養護施設希望館(主任児童指導員) 小椋里香